トルソー Torse
ルーブル宮殿に宿る守護神達は
幾世紀にもわたる光と空気と人々の視線を受けて
艶かしく磨き上げられ、いのちを持ってしまったのかのようだ。
石の地肌の奥深くに醒めることのない熱を蓄え、
細胞分裂を繰り返すが如く、エネルギーをやわらかく発光させ、
長い年月のうちに表層につややかな輝きを獲得した。
それは、人々の空想、あるいは理想の肉体へと
限りなく近づいていく。
群がる観光客の中に立ち尽くす石像の視線は常に彼方に漂い、
我々と対峙することを拒みつつも、
様々な人の想いすらその石肌の中に吸上げてしまうかのようだ。
閉館間際のがらんとした回廊に、
セーヌ川越しの夏の暑い西陽が差し込み、
ゆらゆらと流れ出す空気の動きとともに、
館内にこもった人々の熱気が出口から流出される頃、
エゴイスティックなヴィーナス達は、
またただの石の魂にきっと戻ってしまうのだろう。
Keiichi Tahara