エクラ E c l a t s
ただ茫然と室内に視線を漂わす時、
記憶の中の光景が眼の前に浮かび上ってくる。
幼い頃に見たものか、ほんの数日前に見たものか、
あるいは、それらの記憶が一体となって
混沌とした景色をつくるのかはさだかではない。
透明なものと不透明なものの間を、行きつ戻りつしながら、
光が“かたち”をつくるようでもある。
記憶の中の光景と、今、目の前にある景色とが次第次第に、
意識の中で溶けあい、光だけが実体としてあるような気さえする。
水中の光をとらえようとするかのごとく、
視線は空間の中を、対象物すら識別できずに
光を追ってフワフワとさまよう。
光は時間の流れの中で、空間に痕跡を残し、
そして消えていく。
定着されるべき光があるとするのなら、
やはりそれは“かたち”であるべきではないという想いが
より一層強くなる。
Keiichi Tahara