窓 Fenêtre
朝、目覚める。
一服のタバコをと、手がサイドテーブルの上を這い回る。
朦朧とした意識の中で、火を移す。
閉じようとする瞼をこじあけようと、
おもいっきり煙を吸い込む。
その一瞬、天窓から差し込んでいる朝の陽が、
光としてみえる瞬間がある。
煙を肺の中から吐き出す時、
その光は、吐き出される空気とともに
スーッと陽に姿を戻してしまって、
白い壁に貼りつくいつもと同じ朝の風景へ逆戻りしてしまう。
あの陽ざしが台所につづくドアにたどりつく前までには、
なんとかベッドから這い出そうと思いつつ
二本目のタバコに火をつける。
朝陽で十分に温まった部屋に、
逃げ場のないタバコの煙が充満していく。
漂う煙が陽の中に浮かび上がり、光の所在をまた思い起こさせる。
はて今日はと考えてみても、さして大事なこともなし、
ハトの鳴き声につられて天窓を見上げる。
もう五年は掃除したことのない窓ガラス。
ホコリが積もり、雨が降り、鳥の糞がこびりついたその窓ガラスは、
陽の中でキラキラ輝いている。
その縞模様の隙間から青空に浮いた白い雲が流れていく。
雲と窓と漂う煙の間で、焦点を失った視線が、
昼に近い朝の光の中に溶け込んでいく。
Keiichi Tahara